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日本ブラインドマラソン協会

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JBMAニュース

JBMAに関するニュースや世界のブラインドマラソンのニュースを掲載していきます。

小学館 ビッグコミック連載中:『ましろ日』第2集発売記念!スペシャルインタビュー(広報インターン記事)

戦争から復興し、エネルギー溢れる街・広島で、それぞれに過去を抱えた人々が出会い、交わり、共に生きていく。その様を優しい絵と、誰にでも寄り添ってくれる物語で紡いでいる漫画。それが『ましろ日』だ。この作品の中で、ブラインドマラソンは一つの大きなカギとしての役割を果たしている。

今作で、どうしてブラインドマラソンをテーマに据えたのか、漫画ならではのこだわりや難しさとはどういった点なのか。原作者・香川まさひとさん、作画者・若狭星さん、小学館ビッグコミック編集部・田中潤副編集長の3名に様々なお話を伺った。

写真:向かって左が作画者の若狭先生、右が原作者の香川先生

※今対談に登場するキャラクター紹介
山崎恭治:元自転車便の配達員。事故で両目を失明後はふさぎ込んでいた。しかしひかりをはじめとする様々な人との出会いで次第に変わっていく。のちにブラインドマラソンにも挑戦。
加瀬ひかり:銀行員。銀行員として山崎の担当になったことをきっかけに、色々と世話を焼くようになる。自身も色々な過去を抱えているが、明るく前向きな性格で周囲の人から慕われている。
田所順平:広島に住む高校生。現在は合唱部に所属しているが、中学時代は陸上部で中距離をやっていた。ある日、町中で伴走者と走るランナーの姿を目撃し、伴走者の道へ。山崎の伴走者を務めるようになる。
但馬:山崎が失明することになった事故の加害者。同事故により多額の損害賠償金をもらったこともあり、山崎を逆恨みしている。単行本2集以降、物語に大きく関わっていく人物。
上杉:順平が初めて出会ったブラインドランナー。ランナー歴が長く、大会等にも出場している。

―漫画のテーマにブラインドマラソンを選ばれた理由は何でしょうか

香川 友達がたまたまブラインドマラソンのテレビを見たみたいで、面白そうな題材があるよということを教えてくれたので、ちょっと調べてみたら、助ける・助けられるという関係ではなくてテニスや卓球のダブルスのようなイメージを持っている人もいるらしいということがわかりました。それが興味深いし、漫画で見せていくにはとても良いテーマであり、ドラマだなと思って提案しました。それで今に至るという感じですかね。

―舞台に広島を設定されたのは

香川 市民ランナーが走るということは街を走るということですよね。なので街が舞台、キーになるなというのが一つありました。それでどこがいいかな、架空の街がいいのかというのもあったのですが、復興した街というのはエネルギーがあって力があると思ったんです。マイナスのイメージではない広島というのはどうだろうという話になりました。あと若狭さんが広島出身なんですよ。地方を描くとなると、方言の問題とかがあるのですがそこを彼に任せられるし、実際に今も広島弁は彼に直してもらっているんですね。それで広島に決めました。

―特にターゲットに定めた層はありますか

香川 雑誌自体はかなり年齢の高い方が読んでいるらしいのですが、当然若い人にもお年寄りにも読んでもらいたいですね。年齢層を絞ってはいないです。ただ、仕事をして帰ってきてこの漫画を読んでホッとしたり、あるいは明日から頑張ろうと思ってもらえたりできればベストだなと思って書いています。

―編集者として最初にこの作品を読まれたときはどのような印象を持たれましたか

田中 普遍的なテーマなので、日本の漫画というのが今アジアやフランスでも盛り上がっている中で、目が見えない人、伴走、広島という舞台全て含めて世界に発信すべき作品なのではないかなと思いました。

―ブラインドマラソンについてたくさん取材をされたと伺いましたが、具体的にどのような取材をされたのでしょうか

香川 僕は足が悪いので控えたのですが、若狭さんは伴走の講習会にも参加していますし、あとは視覚障がい者をサポートする同行援護という介護の資格があるのですが、僕はそれを取りました。3~4日間8時間くらい机に座って(笑)。たぶん免許証をとるとき以来でしたね、そういうことをするのは。あとはこの前静岡で1泊2日の伴走者のための講習会に3人で行ってきました。

―若狭さんは実際に伴走をしてみてどのような感想を持ちましたか

若狭 難しいですね。言葉が全然出てこなくて。うまく誘導できないんですよ。あれは普段から意識していないとできないなと思いました。ぶつけちゃったりもしましたし、僕は普段座りっぱなしで仕事をしているので体力もなくて。途中でブルブルしちゃいました(笑)。

―実際に視覚障がいのある方と関わってみて感じたことはありますか

若狭 みんなチャーミングだなと思いました。すごく気さくで。

香川 そこで出会う人というのは外に出てきて走れる方たちですよね。視覚障がい者の中にも色々なタイプの方がいるでしょうけど、明るい人が多いというのが印象的でしたね。元気な方が多かったです。

―それまでの印象と変わった部分もありましたか

香川 そうですね。それはあるんじゃないかな。ただ、作品を作る上で一番気にしないといけないのは、そうじゃない人たちもいるという部分なんです。僕は同行援護の資格を取るときに、視覚障がい者の方と実際に歩いたりバスやエレベーターに乗ったりしたのですが、若狭さんが言うように普段ト書きとかを書く仕事としているのに、パッと言葉がでなくて。「今から坂です」とか「段差があります」とかいうときも上り坂なのか下り坂なのかまで言わないといけないのですが、そこまで気が回らないんですよね。あとそういうことだけじゃなくて、普通に歩いている訳なので、「ハトがいますね」とか「今日は天気がいいですね」ということもやっぱり大事なコミュニケーションだと思うので。安全を確保しつつも、そういうこともできるというのが理想なので、普段から言葉を出す練習をしておいた方がいいなと思いました。あとは語尾ですね。語尾というのはセリフなんかでも結構曖昧にしたりとか、そこから先は察しろとなってしまうのですが、言葉を頼りにされている方は最後まで待っているのでそこは気を付けたいと思いましたね。

―作品を作っていく上で、気を付けた点やこだわったことは何かありますか

香川 特に今回だからというのではないですが、障がい者の方を含め読んでいる人を不快にはさせたくなかったですね。ただ、障がい者の中にも良い人もいれば悪い人もいるし、気の合う、合わないはあるのでそこはちゃんと書きたかったというのはあります。

若狭 柔らかく描くことを意識しました。多くの人に受け入れられたいというのはあったので、刺激物にしないというか。

香川 もともと清潔なあたたかい絵をかく漫画家さんだと思います。やっぱりストーリーがあって、それを別の人が作画する場合って、お互いの良さを生かせるかという一種の戦いなんですね。シーンやセリフを変えたりする漫画家さんもいるのですが、彼は一切それをしないで勝負してくるというかそういう部分がありますね。今までも色々な漫画家さんとやってきましたが、彼の発想力と能力は素晴らしいと思います。

―原作はどういう形で作品を作り上げているのでしょうか

香川 シナリオ形式ですね。広島という舞台があるので、このシーンにふさわしい場所で描いてくださいというときもあります。その時にもこっちが考えているもの以上に含みを持たせた絵になっているときもあるんですよね。例えば「今戦争に苦しんでいる人もいるし、戦争もあるけど、広島は平和じゃな」というようなセリフのシーンがあるのですが、そこで見ているのが川の奥の団地なんですね。団地というだけで人々がいっぱい生活しているのがわかるじゃないですか。そこに団地を持ってくるかと驚きましたね。

若狭 すごく考えますね。ここはどうしようとか、良いシーンにしたいと思って色々探します。

香川 今のところ成功していると思うよ。

―絵にするという点でいうと、ロープを2人で持って走るというのはブラインドマラソンならではの光景だと思いますが、どのように描いていきましたか

若狭 描くのは難しいですね。ひかりを描いたら、ロープでつながっているので山崎は腕から描かないといけなかったりするんですよ。頭から描くとずれてきてしまうので、逆算のような感じですね。あとは顔を両方見せるのも難しいですね。話すテンポだったりセリフを入れる位置もあるので。

田中 1人で走っている漫画よりも、入れ込まないといけない情報が多いので、絵的には難しいと思いますね。

若狭 風景を入れたいというときも結構大きく取らないと入りきらないので。

田中 例えば後ろから抜く、という場面も普通のマラソンだと2人でいいところ、4人になるのでスペースが必要ですし、真横から見た絵にすると何かわからなかったりもしちゃうので。

―キャラクター設定のこだわりなどは何かありましたか

香川 生き生きしている人たちを書きたいというのと、良い部分だけ、悪い部分だけという人はいないと思ったので、良い人にも欠点や悪い部分はあるということは表現したいなと思っていました。

―作品を読ませていただいたのですが、但馬のキャラクターが印象的でした

香川 僕も含め、誰もああいう展開になると思っていなかったんですよね。

若狭 香川さんがそう言っていたのはすごくびっくりしました(笑)。

香川 最初から想定していた展開ではなかったです。やっぱり最初に謳っているように、誰かと幸せになる、誰かを救うということを考えたときに、但馬こそ救ってあげないといけないという思いはありました。当然このままではいかなくて、一波瀾も二波瀾もありますけど悪い奴だけにはしたくなかったです。

田中 色々な物語はありますが、すごく優しい物語だなという風に思いました。最初は何だこの人というような人も、しっかり物語の舞台の真ん中に上げてあげるというか、一緒になってやっていける優しい物語だなと。

―この人が主人公というのがはっきり決まっていないといいますか、それぞれが主人公といった印象を受けました

香川 そうなんですよね。それがテーマという部分もありますね。主人公が頑張って困難に立ち向かって勝つというような話ではないと思っています。全員が立ち向かっていくといいますか。1人じゃなかなか立ち向かえないんですよね、そこを書きたかったです。

―目が見えない状態というのを真っ黒なシーンで表現されていましたが、どう描くか迷ったり考えたりした点はありますか

若狭 難しかったですね。誰も見たことがない絵にしてやろうという思いはありましたけど。

香川 アイデアマンだよね。原作を読んでそれを1から2にしようとしてくれるので。なかなかいないんですよ、それができる人というのは。心の中のことを表現するのが非常にうまいと思います。人間というのは必死に心の中を見せないようにしているじゃないですか。そうしている顔や、そこが破れて見えてしまったときの顔というのをみんな見たいんだと思うのですが、彼は本当に顔を描くのが上手いですね。

―順平がアイマスクをして走るというシーンで、ページを上下二段に分けて同時進行で見せていた場面が印象的でした

若狭 僕も実際に体験したので、読んだ人にも体験したような気持ちになってほしかったというのがあります。それで二段で見せました。

―山崎がブラインドマラソンに出会ったシーンの「汗をかくほど走れるんですか?」というセリフが印象的だったのですが、それはやはり実際に競技を見て感じたことだったのでしょうか

香川 そうですね。強化選手の走りも見に行かせていただいたことがあったのですが、本当に速いんですよね。目が見えないなんて思えないくらい速くて。それはやっぱり実際に見てみないと書けなかったセリフかもしれないですね。

―伴走者がいるだけで安全だけど、言葉がないと安心はできないといったセリフもやはりご自身の経験から出たものでしょうか

香川 そうですね。今後AIのようなロボットや人工知能でも安全という面はたぶんできていくと思うのですが、安心までいけるかというと別だと思います。心という字が入っていますけど、やっぱりふれあいがないと安心にはならない、この人なら任せられるというものがないとと思いましたね。良いセリフですよね(笑)。

―順平が上杉と走ったときに感じた違和感というのはどのように想像したのでしょうか

香川 やっぱりマイナスな部分がないと物語にならないので、実際に色々と聞いたのですが、あまりマイナスな部分が出てこなくて、というかあんまりないんだと思うんですよ。長いこと付き合っているとやっぱり上手くいくんだと思います。でも、さっきも言ったように気が合う人もいれば合わない人もいるということがありますし、ダブルスをやる仲間だという風に考えたら、そういうこともあるだろうなというのをスライドさせて書いた感じですね。人間だから色々あるだろうなという部分ですね。きれいごとじゃない方が最終的にはきれいごとがちゃんと言えるというか。

田中 企画段階のときに、色々と聞いて思ったのがいわゆる感動ポルノと言われているような言葉も最近ありますよね。そういうことを考えるときに障がい者の方を大切に考えるのはすごくいいことだし、嫌な気持ちにさせるものは違うと思うのですが、一方で乙武洋匡さんが一生懸命自分を見せていたりとかしますよね。そういう本当に対等な人間どうし、壁のない関係というのを表現できるものだなと思いました。それが世の中的にも新しいし、そういうところがブラインドマラソンというものに凝縮しているのではないかなと感じましたね。ある種遠ざけることというのは楽なことでもありますし、そこを本当の意味で壁を取り除くのって、どんな人同士でも難しいことだと思うんですよね。でもこの作品で「障がい者の方への意識や付き合い方が変わった」という感想も届いたりするので、そういう意味でも影響を与えられる作品になればいいなと思っています。

―今の質問に関連しますが、連載を始めてから何か反響はありましたか

田中 色々ありますね。視覚障がいをテーマにした作品というのはなかなか少ないじゃなないですか。そういうこともあって、障がいがある方を聖人のように遠ざけるのではないことが必要なんだという意見も編集部に届いたりします。「接し方という点で新鮮だった」、「ブラインドマラソンという競技を知らなかった」、「競技に興味を持った」という人も結構いますね。

香川 何回か、広島で視覚障がい者の方に取材をしたんですよね。その中で一番心打たれたのは本屋さんで働いていた本が大好きな女性で。その人に本を送ったんですよ。朗読してくれるサービスがあって、それを漫画でもやってもらったらしいのですが、やっぱり漫画は難しいじゃないですか。情景の描写をしながらになりますし。それで1ヶ月くらいかかったと言っていましたけど、時間をかけて読んでくれて。お世辞かもしれないですけど、「すごく面白かった」というのを自分で手紙を書いて送ってくれたんです。線引きを置いて書いてくれていて。それを見るとちゃんと書かないと、という気持ちになりますね。

若狭 代々木公園の練習会で出会った女性がいるんですけど、その人も読み聞かせのサービスを利用していると言っていて。それを聞いて、単行本の表紙をめくったところに香川さんの原作を載せようと思いました。読み聞かせる人のために参考になればと思って。

田中 単行本のカバーを取ると、その本の中でハイライトになるようなシーンが、香川先生が書いている原作の形で載っているんです。原作の上に該当する絵が入っています。さりげなくやりすぎてまだ読者に気づかれていない可能性もあるかもしれないですけど(笑)。絵で表現している部分を気の利いた言葉で表現するのは難しいと思うので、そういったことのヒントになればと思って。

写真:こだわりが詰まった単行本カバー下のト書きと絵

―この作品はどのようなものになっていってほしいですか

香川 単行本1集の最初に書いた通り、幸せは一人でなるものじゃないということを上手く書ければなと思います。誰かのために、誰かと一緒に、という部分を書きたいと思いますね。

若狭 僕は多くの人に好きになってもらって、ずっと記憶に残るものになっていってほしいと思います。今、すごく漫画が過剰に消費されているというか。企画を推すというよりは、漫画自体を好きになってほしいと思いますね。単純なものにしないというか。

田中 伴走者の人が足りない、というのは取材の途中でも感じました。走りたくても走れない人がいて。本当は走る力はあるのに競技を知らないから走っていない人がたくさんいるんじゃないかなと思うんです。この漫画を読んで、伴走をやろうかなと思う人が増えたらと思いますね。もちろん人間関係の距離だったり、人と人の関わり、そういう意味では誰にでも響く物語だと思います。

―では最後に読者へ向けたメッセージをお願いします

若狭 ひかりや順平は一緒にいる人を自分で選んで、一緒にいる時間を作っているんですよね。でも今働いている人たちがそういうことをしようと思っても、なかなかできないと思います。そういう風に自由に時間を作れるようになったらいいなと思って描いています。

香川 一番新しい回にも少し書いたのですが、選ばれたアスリートたちの話ではなくて、学生だったり普通に仕事をする人たちの話だと思うんです。運や偶然を大事にして、これを読んで明日も頑張ろう、と思ってくれたらいいなと思います。

取材・編集 太田萌枝(早稲田スポーツ新聞会)

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