「防府は私をマラソン選手として育ててくれたレース。」(道下美里選手、T12、三井住友海上)地元への感謝の気持ちを胸に挑んだ凱旋レースは、充実の内容となった。視覚障がい女子の部において日本選手権ともなる第52回防府読売マラソンは、東京パラリンピック覇者の道下選手が2時間58分06秒で圧巻の5連覇。3時間切りの好タイムでパラリンピックイヤーを締めくくった。また、同T12クラス期待の若手、和木茉奈海選手(T12、大阪陸協)は自己新記録を樹立。今後の課題と次の目標を見つけた、実り多き大会となった。
視覚障がい女子の部には、2人の他、近藤寛子選手(T11、滋賀銀行)、井内菜津美選手(T11、みずほFG)、金野由美子選手(T11、JBMA)、西村千春選手(T12、岸和田健康クラブ)の計6名が出場し、伝統ある大会で日本一の座を争った。
昨年にはT12クラスの世界記録を樹立するなど、コースのことは知り尽くしている道下選手。スタート後約3km続く直線コースを含む最初の5kmは、向かい風の影響もあり、21分32秒と落ち着いた入りとなったが、その後は徐々にペースを上げていく。「後半上げていくような走りをしたいと思っていた」という言葉どおり、中間点を通過したあとは5kmあたりのラップタイムを20分50秒台までビルドアップ。25km地点を超えてから待ち構える二度のアップダウンももろともせず、スピードを維持したまま競技場へ姿を見せると、2時間台で五度目のフィニッシュテープを切った。
写真1 堂々の優勝を飾った道下選手と河口ガイド
今大会は、小柄な女子選手にとっては特に過酷な条件に思える、強風を伴うコンディションとなった。そんな中でも、見事思い描いた通りのレースを展開して見せた道下選手。その要因は今夏の東京パラリンピックに向けて積んできたトレーニングによって作られた強いフィジカルにあった。「腰と背中とお尻の動きが繋がってきた感じがする」と自身でも振り返った通り、体幹が強化されたことで腰が落ちにくくなり、レース後半にもストライドを保つことが可能になった。自らの目標に向かい、常に進化をし続けるトップアスリートが次に目指す場所とは。強い絆で結ばれた伴走者や、たくさんの声援を背に輝きを増す姿から目が離せない。
自身初の3時間30分切りとなる、3時間28分51秒で5位入賞を果たした和木選手は前半から積極的に入り、5kmあたり24分20〜30秒前後のラップを維持しながらレースを進める。コースの起伏や向かい風の影響も受ける後半はペースを落としたものの、伴走者の声掛けに力をもらいながら、ゴールラインまで全力で駆け抜けた。「前半貯めた分を後半に使ってしまった。後半もっと粘っていけたら(3時間)25分を切るようなところも目指せるかな。」(和木選手)自身のレースをそう振り返った和木選手。その心はすでに、今回自ら切符を掴み取った別府大分毎日マラソンに向いていた。来年2月、どんな走りを見せてくれるのか。今後の活躍が楽しみだ。
写真2 自己ベストをマークした和木選手と丸一ガイド
文責・写真:太田 萌枝