2年ぶりの開催、そして70回目の記念を祝うかのように、選手たちの好走・好記録が光る大会となった。真冬の大分県で開催された第70回記念別府大分毎日マラソン兼第22回男子視覚障がいマラソン日本選手権大会。一般男子の部では大会新記録と6名のMGC出場者が誕生し、視覚障がい男子の部(T11)ではなんと2名がこれまでの世界新記録を更新するなど、オリパラともに2年後のパリ大会で世界で勝負するための戦いが始まった。
視覚障がい男子の部を制したのは、東京パラリンピック5000mと1500mのメダリストである和田伸也選手(T11、長瀬産業)。従来の世界記録を、5分以上塗り替えての初優勝となった。パラリンピックをともに戦った矢嶋謙悟さん、長谷部匠さんの伴走で挑んだ今大会。向かい風の中最初の5kmは17分07秒で入り、好調に滑り出す。第一折り返し地点までの次の5kmでは風とコース内最大のアップダウンの影響も受けてラップを落としたが、折り返し地点を越えてコースを南下し始めてからは、追い風を味方につけスピードアップ。15km地点で後方から追いついてきた、東京パラ5000mのメダリストである唐澤剣也選手(T11、群馬社福事業団)と並走する形でゴールを目指した。2人は世界記録を優に上回るペースで、35kmまでともに歩を進める。第2折り返し地点を迎え、再びランナーを押し戻すような厳しい風に向かうこととなったラスト7km、和田選手はここからが強かった。向かい風の中でもラップタイムを落とすことなく粘り切り、腕を振る力強いフォームのまま競技場へ。世界記録更新のアナウンスとともに2時間26分17秒でゴールテープを切った。終盤まで優勝争いを繰り広げた唐澤選手が、こちらも従来の世界記録を更新する2時間28分27秒で続けてフィニッシュ。ゴール後互いを称え合いながら見せた晴れやかな表情が印象的だった。
3位には一昨年の優勝者、熊谷豊(T12、三井住友海上)が入賞。強い風に苦しめられながらも、故障からの復活へ、次につながる一歩を踏み出した。
今回和田選手が目指していたのは「大幅な自己記録更新」。長年世界と戦うトップ選手でありながら、常に自分と向き合い進化を止めない姿に強さの訳を見たように思う。ベテランの進化と若手の台頭により、レベルが上がっている日本の男子ブラインドマラソン界。切磋琢磨しさらなる高みへ。今後の展開も楽しみだ。
文責・写真:太田 萌枝
写真:T11男子で世界記録を樹立した和田選手と長谷部ガイド