パリ2024パラリンピックへの長いようで短い道のりが、山口県防府市から始まった。例年よりも開催日が早まり、12月4日(日)に開催された第53回防府読売マラソン。IPC女子の日本選手権も兼ねる本大会は、世界パラ陸上競技連盟(WPA)の競技規則が適用され、ブラインドの選手にとっても大きな意味を持つ大会だ。さらに、2024年のパリパラリンピックに向けては、本年10月1日以降の記録が参加標準記録の有効期間として扱われるため、代表入りを狙う選手としてはタイムを狙っておきたいところ。複数選手の故障等の影響もあり、IPCの部からは男女各4名の出場となったが、目標達成へ向け師走の空の元全力で駆け抜けた。
これまでよりも2週間早い日程での開催ということもあり、穏やかな気候でスタートした今大会。アップダウンは少ないが、複数ヶ所にある直角に曲がるポイントでの接触やレースが進むにつれて吹き始める風に注意したいコースだ。
昨年の同大会で初優勝と自己記録の更新を達成した高井俊治選手(T13、三好市陸上競技協会)は、今大会でも2時間30分切りを目指してレースに挑んだ。自身のコンディションの良さを信じ、集団の中で3分30秒/kmを切るラップのハイペースで序盤のレースを進める。15〜20kmで少しペースを落とし迎えた中間点は1時間13分20秒で通過。昨年よりはわずかに遅いタイムではあるものの、目標とする2時間30分切りは十分達成可能かに思われた。しかし想定通りにいかないのも42kmあるマラソンの厳しさだ。「折り返しの29km手前で集団についていけなくなった」と振り返ったとおり、後半は単独走で粘りが求められる展開に。終盤の向かい風にも苦しめられたが、終始IPC男子の部のトップを守りきり、2時間34分25秒で連覇を果たした。男子2位には昨年から1年以上長引いている故障の影響を受けながらも、「今の調子を確認しつつ、目標とするタイムで走りきりたい」と意気込んだ熊谷豊選手(T12、三井ダイレクト損保陸上競技部)が2時間42分22秒で続いた。3位の米岡聡選手(T11、三井住友海上)、先月体調を崩していたという4位の山下慎治選手(T12、大濠公園ブラインドランナーズクラブ)を含め、いずれの選手も自己記録の更新はならず、次戦へかける思いを強くした1日だったのではないだろうか。男子の日本選手権となる2月の別府大分毎日マラソンで、ぜひ雪辱を果たしてほしい。
写真1:男子で優勝した高井俊治 選手
日本一の座を争う女子の部では5連覇中の道下美里選手(T12、三井住友海上)が欠場する中、静かな優勝争いが繰り広げられた。序盤西村千香選手(T12、JBMA)が自己新ペースで走り出すと、そこに続いたのは井内菜津美選手(T11、みずほフィナンシャルグループ陸上競技部)。10km手前で追いつくと、そこからは2人の自己記録に近い3時間13分前後のタイムが狙えるペースを維持しながら、並走する形でレースを進めた。レースが動いたのは折り返し地点がある29km前後。「優勝を狙っていた。去年は後半すごく失速してしまったのでそこを克服するトレーニングをしてきた」と経験を生かした井内選手の粘りが発揮される。向かい風に負けずゴールを目指し、3時間16分15秒で初優勝のテープを切った。続けて3時間15分〜20分を目標としてレースに挑んだ藤井由美子選手(T12、びわこタイマーズ)が後半の強さを見せ、3時間17分32秒でフィニッシュ。中盤まで首位を引っ張った西村選手は3位でゴール、3時間23分台を目指した和木茉菜海選手(T12、JBMA)は自己記録を2分以上更新する3時間24分10秒の4位でレースを終えた。
写真2:女子の選手権者となった井内菜津美 選手
冬を迎え、本格的に始まったロードシーズン。春夏にトラックで培ったスピードや積み重ねてきた鍛錬の成果を、42.195kmで発揮する季節がやってきた。狙った大会で、狙った結果を出す。非常にシンプルに見えるが、そこには体調管理、練習、モチベーション、スケジューリング、食事、道具など様々な条件が複合的に絡まり、容易に実現できることではない。しかし、日本ひいては世界のトップレベルで戦う選手には求められる力であることも事実であり、選手たちはそのための準備を日々重ねている。持てる力を強さに変えて、自分との、世界との戦いへ。次戦にも注目だ。
文責・写真:太田 萌枝