5月20日(土)、21日(日)の2日間にわたり、第59回東日本実業団陸上競技選手権大会が秋田県営陸上競技場で開催された。強い日差しに加え、巻き上げるような変則的な風が吹くコンディションの中、1500メートルに男女各1名ずつ、視覚障がい5000メートルに男女合わせて12名の選手が出場。客席からの声援を力に代えて、各々目標達成を目指した。視覚障がい5000メートルでは、道下美里選手(三井住友海上)が大幅に日本記録を更新するなど、日本視覚障がいマラソン界の未来にとって、明るい材料を多数得た今大会。今回の結果は世界と戦える、そして世界で勝てる選手の育成・強化において追い風となっていくだろう。
20日の午前には男子1500メートルに唐澤剣也選手(JBMA)が、同種目女子の部には松本光代選手(JBMA)が出場した。世界選手権の標準記録である4分32秒を切ることを目標にスタートラインに立った唐澤選手。この種目は一般の実業団選手と同じ組での競技となったため、レースは序盤から速いペースで展開された。唐澤選手は集団からは早々に離れたものの、1周目から自己記録更新のペースでラップを刻み、積極的な走りを見せる。およそ中間地点の700メートルを2分1秒で通過し、目標である4分32秒を大幅に上回るかに思われた。しかし前半のハイペースの影響か、そこからは思ったようにペースを上げられない。ラスト1周の鐘が鳴り、伴走者の中田崇志さんから励ましの言葉がかかる。「いけるぞ!」。その声に背中を押され、再度自らを奮い立たせた唐澤選手だったが、フィニッシュタイムは4分32秒19。わずか0.2秒、距離にして約20センチ届かなかった。目標タイムが十分に射程圏内であっただけに、非常に歯がゆい結果である。しかし、唐澤選手のこれからの伸びしろは計り知れない。今大会の悔しさを糧に、どこまで強くなっていくのか。今後の活躍から目が離せない。
写真:1500mに出場の唐澤選手と伴走者の中田さん
同日午後に行われた視覚障がい5000メートル。ここで圧巻の走りを見せたのは、昨年のリオパラリンピック視覚障がいマラソンの部で銀メダルを獲得した道下選手だった。1000メートルを3分48秒で入ると、事前に立てていたレースプラン通り、1周92秒のラップタイムを確実に刻んでいく。ところがレース中盤、「3000メートルくらいで一度嫌なイメージが出てきた」と自身でも語ったようにわずかにペースが乱れる。しかし世界で戦う『日本のエース』は、そこで簡単に折れてしまうことはなかった。伴走者の北村拓也さんと共にもう一度気持ちを立て直すと、後れを取り戻すように400メートルあたりのラップを91秒に上げる。その後はリズムを崩すことなく、19分10秒66でフィニッシュ。これまでのT12クラスの日本記録、19分28秒49を大幅に更新するタイムをたたき出した。日本記録の大幅更新にも、「本当は18分台を狙っていた」とコメントし、目指すレベルの高さをうかがわせた道下選手。自身最大の目標である2020年東京パラリンピックでのマラソン種目金メダル獲得へ向け、今後も一切の妥協はない。スピード強化に力を入れるという今年、5000メートルでまず狙うは18分45秒だ。より速く、より強く。道下選手の進化は止まらない。3年後、東京で一番輝くために――。
写真:男子表彰式 左から谷口選手の伴走者の松垣さん、2位の谷口選手、優勝の熊谷選手、3位の山下選手、山下選手の伴走者の今井さん
今大会では、男女同時スタートとなった5000メートルで男女別の周回表示や、選手からの要望に応じて給水のサポートが行われるなど大会運営にあたっても柔軟な対応が多々見られた。また、スタンドからは選手に対しての声援や記録への驚嘆の声が響く。日本記録や大会記録の更新といった競技レベルの向上を感じられたことはもちろん、こういった大会運営サイドの協力や初めて競技を見る人からの応援を得られたことは、視覚障がいマラソン界、ひいてはパラスポーツ界全体にとって大きな収穫と言えるだろう。流れゆく時間の中で、2020年東京パラリンピックは刻一刻と迫ってきている。大会成功へ向け、より多くの人を巻き込む時期がいよいよやってきた。
写真:女子表彰式 左から2位の青木選手、優勝の道下選手、3位の近藤選手
文章/写真:早稲田大学スポーツ新聞会 太田 萌枝