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日本ブラインドマラソン協会

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JBMAニュース

JBMAに関するニュースや世界のブラインドマラソンのニュースを掲載していきます。

『風が吹いたり、花が散ったり』(講談社)著者:朝倉宏景さん インタビュー(広報インターン記事)

自分の知らない世界、かかわりのない人、面倒に思えること。そういうものには目を向けずに、「私」の世界からシャットアウトする。そうやって自分を守り、自分の居心地の良い範囲だけで生きていく。そうすることができたなら、どんなに楽だろう。でも――。どんなにむなしいだろう。

 

そんな狭い世界も、凝り固まった価値観も、たった一つの出会いから変わり始めることがある。

 

『風が吹いたり、花が散ったり』はまさにそう感じさせてくれる作品だ。ある過去を背負い人生に悩むフリーターの亮磨が、視覚障がい者のさち、そしてブラインドマラソンと出会い、悩みながらも一歩ずつ前に進んでいく姿を描いた本作。執筆にあたって、ブラインドマラソンをテーマに設定した経緯やそこに込められた思いとは。著者である朝倉宏景さんご本人にお話を伺った。

 

――作家になられたきっかけは何でしょうか

講談社の新人賞を受賞したのがきっかけなのですが、もともと大学生くらいのときから投稿を続けていて。受賞まで7年くらいかかったのですが、途中就職をしたりもしながら27歳でデビューしました。

 

――今作『風が吹いたり、花が散ったり』でブラインドマラソンを題材に選ばれた理由を教えてください

趣味がジョギングで結構走っているのですが、光が丘公園を走っていたときに初めて視覚障がいの方と伴走者の方がペアで走っているのを見たんですね。しかもすごく速くて、追いつけないレベルで走ってらっしゃって。それを見て、どんな競技なんだろうと興味を持ったのがきっかけですね。それで色々調べ始めました。

 

――それ以前にブラインドマラソンのことはご存知でしたか

存在自体は知っていたのですが、深く調べようとまでは思っていなかったです。ただ実際に走っているところを見て、すごい競技だなと思って。

 

――ほかにもたくさん障がい者スポーツ競技はありますが、ブラインドマラソンだった理由は他にありますか

調べていて、信頼関係というのがすごく大事な競技だなと思いました。もし仮に視覚障がいの方が全盲だったりすると、完全に見えないわけですから全幅の信頼をガイドの人にゆだねないといけない、またガイドの人もメインは競技者なので途中で止まることは許されないし。そういうお互いの信頼関係を描ければ、小説としてすごく深みが出るな、そこを掘り下げていけば良いテーマになるなと思ったのが理由ですかね。

 

――トラック競技ではなく、マラソンに焦点を当てたのもそういった理由からでしょうか

そうですね、少しここは小説的な話になってしまうのですがトラック競技だとやっぱり少し短いですよね。それだと心理的な駆け引きとかやり取りというのが伝わりにくいと思いました。しかも伴走者は途中で交代することができるので、この3人の間にきっとドラマが生まれるんじゃないかなと思ってマラソンの方を選びました。

 

――競技について調べていく中で特に印象的だったことは何でしょうか

調べ始めて最初にチェックしたのが、道下美里選手(三井住友海上)というリオで銀メダルと獲られた方なのですが、まず一番にめちゃくちゃ速いということに驚きました。ベストだとフルマラソンで3時間切るタイムを持っていて、それに加えてご本人がすごく明るいというのが印象的で。病気で視覚障がいになられたわけなので、当然葛藤もあるだろうし辛いこともあるんだろうし。でもその人柄に惹かれたというか、主人公と一緒に走るさちというキャラクターにイメージが重なる部分がありました。テレビのドキュメンタリー番組で、初めて道下選手の伴走をやった方がご本人はすごく走力もある方なのに途中で脱水状態になってリタイアしてしまったという場面を見たんです。それを見てすごく責任があるし、相手のことばっかり考えて自分のことをおろそかにしてもダメだと思って。しかも伴走が2人いて3人でチームとなると、責任が分散するわけじゃなくて人が関われば関わるほど、どんどん責任が重くなっていくということがわかりました。そういう部分が奥が深いなと思いました。

 

――本を読ませていただいてさちのキャラクターが道下選手に重なるように感じたのですが、モデルにされた部分もありますか

そうですね、若干そういう部分はあると思います。明るい点というか、何事にも負けない精神力は参考になりました。

 

――実際に伴走やアイマスク体験もされたということですが、いかがでしたか

まずアイマスク体験は、予想はしていたのですがそれよりもはるかに怖くて。歩くこともままならないのに、ましてやこれで全力で走るとなると本当に隣の人を信頼しきらないとできないんだなと思いました。あとは、ガイドは口の反射神経が求められるというか。「そこ水たまりあるから1メートル左」とか「90度右に曲がる」とか具体的な指示を出さないと、「そっち行きます」とかじゃ全然通じない訳で。その反射神経はすごいなと思いましたね。

 

――さちのキャラクターを設定する際に、障がいを後天的なものにした理由は何かありますか

うーん、そうですね。先天的に見えないことと、後天的に見えなくなることって格段に差があると思うんですね。小説的なことで言うと、すごく安易な言葉ですが見えていたものが見えなくなるところに苦悩とか葛藤がより生まれてくると思ったので後天的なものにしました。

 

――クライマックスで描かれるかすみがうらマラソンは実在する大会ですが、その取材もされたのでしょうか

大会当日には行ったことはないのですが、何でもない日に車でコースを回って実際にどういうものがあるのか、視覚的に何が見えるのかをチェックしました。例えば蓮の畑が広がっているなとか、霞ヶ浦が遠くに見えるなとか。そういうことが知れたのは大きかったと思います。

 

――作品の中には社会的に生きにくさを感じるキャラクターが多く登場しました。この作品の中で一番伝えたかったことは何でしょうか

我々が社会で生きていれば、当然障がいがある方もいたり健常者がいたり、性格的にいろいろな欠点があったり、長所があったりします。そういう色々な価値観がある中で社会を構成していく中で、色々な人が補い合っていける社会、そういった社会に少しでもなればなという理想は持っています。でも実際この社会を見ているとなかなか上手くはいかないなというのは感じますよね。例えばアメリカとかを見てみても人種差別の問題などは近年話題になっていますし、日本でもなかなか見えにくいけど表面の裏にはそういう面が多々あるなとは感じているので。理想ですが、そういった社会が変わっていけばいいなという思いはあります。

 

――主人公を含め、私たち大学生と同じ19~22歳くらいのキャラクターが物語の核となっていますが、年齢設定について何かこだわりはありましたか

今までも高校生くらいから20代前半までの登場人物を描くことが多くて。なぜかというとやっぱり一番揺れる時期、成長する時期でもありますし、その成長の裏には絶対不安だったり悩みだったりというのが必ずある世代だろうなと思うからですかね。

 

――今作を読んだ若い世代の方々にはどういうことを感じ、どういったことを考えていってほしいですか

自分の若いころを振り返ってみると、自分の価値観ばっかりになる世代かなと思うんです。ただ少し立ち止まって周りを見てほしいなと。例えば会社に入ったら色々な価値観を持った人とチームを組んで仕事をやらないといけない場面もあると思うので。色々な考え方をもっている人がいるということに気づいてほしいなと思います。

 

――今作を書いて、ご自身の中で何か変わったことはありますか

街で視覚障がいの方を見かけても、前は声をかけるべきかどうか迷って結局かけない、ということもあったのですが、困ってそうだったら声をかけるようにしたいと思うようになりましたね。

 

――視覚障がいがある方には、今作をどのように読んでほしいと考えていますか

それがちょっと不安なところがあって。自分は当事者ではないので窮極を言うとやっぱりわからないんですよ、当事者の方がどう感じるかというのは。なのですごく怖いなという点はありますね。少しでも前向きな気持ちになってもらえれば、というのも傲慢なので…ちょっと何とも言えないですね、難しいです。

 

――自分とは異なるキャラクターを描いていく中で、何に一番気づかいをされますか

その人には完全にはなりきれない訳なのですが、完全には理解しきれないまでも最大限理解しようという点で資料を読んだり、取材に行ったり、話を聞いたりということは考えていますね。

 

――物語の中でご自身の一番近いキャラクターは誰でしょうか

近いのはやっぱり亮磨ですかね。人とコミュニケーションを取るのが苦手だったり、色々なことに二の足を踏んでしまったりとかそういう部分が似てるかなと思います。

 

――今作には恋愛要素も含まれていますが、当初から決めていたのでしょうか

そうですね。伴走が2人までつけられる、男女でも良いということだったのでこれは恋愛しかないでしょう、と(笑)。やっぱり一番は楽しめるエンタメ小説なので何か盛り上がるところが欲しいなと思いました。

 

――読者のレビューの中にもメッセージ性に関するものと同じくらい、読みやすさという点も多く挙げられていました

やっぱりリーダビリティ、読みやすさというのは一番に考えています。それプラス何かお土産というか、感じ取ってもらえるものがあれば良いかなと思って書いています。

 

――次回作の構想はもう出来上がっていますか

短編なのですが、ラップのフリースタイルバトルをテーマに書こうと思っています。テレビで見たのですが、お互いにここだけは譲れないという部分がある熱い世界なんです。即興で相手が言ったことに返しつつ、韻も踏むのでそれも口の反射神経かなと思います。

 

――では最後に読者の方にメッセージをお願いします

何というか、自分でまずシャッターを下ろさないようにしてほしいなと思います。それはすごくもったいないことだと思うし、自分とあの人は違うんだとなってしまった時点でその後の発展がないというか試合終了になってしまうと思うので。嫌いだったり、苦手だったりしてもノックくらいはしても良いんじゃないかなということが伝わればいいなと思います。

 

取材・編集 早稲田スポーツ新聞会 太田萌枝 平野紘揮

 

著者プロフィール(本著より抜粋)

朝倉宏景(あさくら・ひろかげ)

1984年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。会社員となるがその後退職し、現在はアルバイトをしながら執筆活動を続けている。2012年『白球アフロ』(講談社文庫)で第7回小説現代長編新人奨励賞を受賞。選考委員の伊集院静氏。角田光代氏から激賞された同作は、2013年に刊行され話題を呼んだ。他の著書に『野球部ひとり』(講談社文庫)、『つよく結べ、ポニーテール』(講談社)がある。

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