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日本ブラインドマラソン協会

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JBMAニュース

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メディア掲載情報:“きずな”を介して、つながる心:Civil Engineering Consultant Vol.277 スポーツ ~スポーツで「つながる」~

Civil Engineering Consultantという一般社団法人建設コンサルタンツ協会の広報誌に、ライターの星野恭子さんが伴走についての記事を執筆されました。
協会様と星野さんのご好意により、協会HPへの掲載を快諾いただきましたので、掲載いたします。
 
“きずな”を介して、つながる心。視覚障害ランナーと走って、広がった世界
視覚障害ランナーを支える伴走者の役割は、目になることだけではない。伴走活動を通して経験した
二人をつなげる「絆(きずな)」とは何であろうか。そして私たちが障害者スポーツにできるいろいろな支援を知るとともにまだ知られていないパラスポーツの魅力に迫る。
 
伴走活動との出会い
私はフリーランスのライターで、さまざまなテーマについて取材をし、文章にまとめて発信している。
10 年ほど前から、ライフワークともいえる思いで取り組んでいるテーマがパラスポーツ(障害者スポーツ)だ。
ひとくちに「障害」といっても、その内容はさまざま。
でも、「スポーツを楽しみたい」という人は少なくない。そして、スポーツに取り組む人なら誰でも多かれ少なかれ、「もっと速く走りたい」「もっと強くなりたい」と思うだろう。それは障害のある「パラアスリート」も同じだ。
ただし、障害によって難しい動きや苦手なこともある。
だから、努力する、工夫する。そうして、体も心も鍛え、それぞれの目標に立ち向かう。その姿に、私はひかれている。
パラスポーツにはまた、アスリートを支える人も多い。縁の下の力持ちから、チームメイトとして共に戦う人までさまざまだが、選手と支える人との間にある信頼関係に根ざした「つながり」にも、私はひかれている。
多くの人に知ってもらい、できれば一緒につながってほしい、そんな思いで取材をつづけている。
私がパラスポーツに興味をもったのは、視覚に障害があるランナーをガイドしながら走る、「伴走」という活動に出会ったことがきっかけだ。
ある日、体験会に参加して、全盲のランナーとベテラン伴走者から手ほどきを受け、数時間後にはなんとか伴走することができた。
別れ際にランナーから、「ありがとう。伴走者がいないと私は走れない。また一緒に走ってくださいね」と言われ、「好きなスポーツで、誰かの役に立てるなら」とやりがいを感じた私はすぐに、ある伴走クラブに入会した。
それまでの私に、障害のある人との接点はほとんどなかった。今改めて振り返ってみると、伴走はたくさんの貴重なことを私に教えてくれた。
伴走者の役割
視覚障害者の伴走者の一番の役割は、ランナーの「目」となることだ。人間は外界から得る情報の約8割を視覚から得ていると言われる。だから、伴走者の責任は重い。
まずは安全第一で、走るべき方向を言葉で伝えながら、障害物を避け、転倒や衝突しないよう注意を払う。
視覚障害といっても、見え方は各々さまざまで、特に全盲者やかなり重度の弱視者と走るときは、ロープを握り合って走る。このロープは、「絆(きずな)」と呼ばれることもある。ランナーと伴走者をつなぐ、大切なものだからだ。
ロープは拳同士が触れ合うくらい短く握る人から、少したるませる人までお好みしだい。混雑している道や悪路などでは短いほうが安全で、状況に応じて肘などをつかむこともある。
基本の走り方は二人三脚の要領で手と足の動きを合わせる。伴走者はロープを持つ手を少しだけ自分の外側、つまりランナーの胸の前に向けて振ると、引っ張り合いを避けられる。
ランナーにとっての理想のフォームは伴走者には少し不自然になるが、そうして動きを、気持ちを合わせることが伴走には欠かせない。
見えない相手には言葉で情報を伝える「声かけ」が重要だ。
何に注意し、ランナーに何を伝えるべきかを知るために、新人伴走者はアイマスク着用で見えない状態となり、「伴走される体験」から始めるのが一般的だ。
私もそうだったが、アイマスクランはとても怖く、一歩踏み出すのに勇気がいる。「見えない恐怖」を体験し、視覚障害ランナーの気持ちを共有することで、安心して走ってもらえる声かけのヒントになる。
声かけは具体的なほうがいい。「段差があります」でなく「10cmの上り段差」や、「右に曲がります」より「10m先を右に90度」といった具合だ。
上り坂では、いつまで続くのか不安だろうから、「30mほど上ります」などと先に言えば親切だ。ランナーは基本的に緊張して走っている。だから、「道はしばらく平らで、周りに誰もいない」など安全な状況も伝えるとリラックスできる。
「沈黙がいちばん怖い」とランナーは口をそろえる。基本を学んだら、あとは経験だ。まずは、「やってみよう」の気持ちとランナーを思いやる姿勢さえあれば誰でもできる。
相手より走力があったほうが伴走にも余裕がでるが、伴走者を必要とするランナーは多く、走力もさまざま。自分を必要とするランナーはきっといる。
私も最初は緊張でガチガチだったが、毎週末、練習会に通い、さまざまなランナーと走るうちに伴走技術も上がり、おしゃべりも楽しめるようになっていった。
目からウロコの、気づきの数々
とはいえ、私も始めの頃は、「お手伝いしなくちゃ」と気合が入りすぎ失敗もした。
たとえば、練習後に一緒に食事に行って、割り箸をパチンと割って手渡したら、「見えなくても、割り箸くらい自分で割れるよ」と言われてしまった。たしかに、障害者は何もできない人ではない。
ほとんどのことは自分ででき、少しだけある苦手なことを伴走者は手伝えばいいのだ。視覚障害者だからこその、「すごさ」にも驚かされた。
たとえば、全盲ランナーと公園を走っていて、「近くに池でもある?」と聞かれたことがある。噴水のある池はあったものの、まだ少し先で、私には水音など全く聞こえない。
でも、音が頼りの視覚障害者は私と話しながら、周囲にも耳を傾け情報を得ていたのだ。
また、ある時は、前方に自動車を視認したが、完全に駐まっていたので、衝突しないようコースを少し調整しただけで車の存在は伝えずに通り過ぎようとした。
すると、「今、左側に車でもあった?」と言われたので理由を聞くと、走っていて左からの風を感じていたのに急に風が止んだので、「何かある」と思ったという。微妙な空気の流れも感じる皮膚感覚の鋭さに舌を巻いた。
風といえば、視覚障害ランナーの多くが「風を切る感覚」の魅力を語る。特に中途失明のランナーは、「二度と走れると思わなかった。伴走者のおかげで風を切る心地よさをまた感じられた」と喜ばれることも多い。
生まれつき全盲の女性と組んだときは、走ったことも、走る動作を見たこともない彼女に、走るフォームを教えるところから伴走した。
人間は走るときは両手足を交互に振るのが自然だが、彼女には最初、その動きができなかった。
幼い頃から右手は白杖(はくじょう)と呼ばれる白い杖を握るためにあり、自分の前方で周囲の様子を探るため小刻みに動かすことが彼女にとっての「自然な動き」だったからだ。
まずは杖を手離し、両手を振って歩くことから始めた。ぎこちない動きが少しずつスムーズになると、彼女は笑顔になった。「両手を振って歩くって、気持ちいいね。開放感!」
伴走と出会うまでの私は、両腕を自由に振って歩き走ることは、誰でもできる、当たり前のことだと思っていた。でも、そうでない人たちがいる。
そして、伴走者なら、その当たり前の時間を共有できる。そんなことに気づき、ランナーとのつながりが深まっていくうちに、私はどんどん伴走に夢中になった。
ともに世界を目指す伴走者
ランナーがパラリンピックを目指すような高いレベルになると、伴走者に求められることも当然増える。
余裕をもって安全にガイドをこなすには、ランナーよりも速い持ちタイムが必要だ。ちなみに、2017年7月現在、伴走者と走る視覚障害(T11/全盲)クラスのフルマラソン日本記録は2時間32分11秒で、イタリア選手がもつ世界記録は2時間31分59秒だ。
また、ランナーは障害を負ってからランニングを始めるなど本格的な陸上競技経験がない人も少なくない。だから、伴走者にはコーチとしての役割も期待される。
日々の練習のなかで、正しいフォームや練習方法、選手としての心構えなど最も身近な立場からアドバイスできるからだ。
強化選手ともなれば、週末は合宿や試合が続く。パラリンピックなら、遠征期間は2~3週間と長い。伴走者もともに、家を空け、職場を離れなければならず、周囲の理解が欠かせない。
また、遠征中は選手と同部屋で日常生活のサポートも期待される。伴走者にはさまざまな意味で、「人間力」が必要になる。
こう聞くと、ハードルが高そうだが、伴走者たちはやりがいをもって取り組んでいる。世界を目指す選手の夢を、自分の夢として追いかけられる経験は限られた人にしかできない。
また、伴走者として大会に帯同するのは選手1人につき1~2名だが、日々の練習はもっと大勢の伴走者が支えていることが多い。大会に出場する伴走者たちは、「多くの伴走者の代表と思って戦っている」と話す。
パラリンピックなどでは一定の条件のもと、伴走者にも選手と同じメダルが授与される。
伴走ランはチーム戦であり、伴走者も紛れもなく、「選手」なのだ。
最も気軽で効果的に、パラスポーツを支える
伴走活動をきっかけに、私は広くパラスポーツにも興味をもつようになった。東京2020大会の開催が決定して以降、パラスポーツを取り巻く環境は確実に向上しているが、現場にはまだ課題が多く、支えも必要だ。
支える方法にはいろいろあり、伴走者や競技アシスタントのように選手と直接関わることのほか、スポンサーや寄付といった金銭的な支援もある。
もう一つ、気軽にでき、しかも効果的なのは会場での観戦だ。アスリートにとって日頃の成果を観客に観られ、応援されることは励みとなり、力となる。声援に後押しされてタイムが上がることだってある。
一方で、観られることはプレッシャーにもなる。大観衆の前で実力を発揮するには日頃から緊張感に慣れることも必要だ。
だが残念ながら、日本国内のパラスポーツ大会のほとんどは観客が少なく、その大部分も選手の家族やスタッフなどだ。多くの一般観戦者の前で競技をする経験は、地元の期待を背負って戦う東京2020大会へのよい準備になるはずだ。
会場での観戦はまた、観客にとってもパラスポーツを知り楽しむための特別な時間だ。たとえば、車いすバスケットボールでは選手の高い技術や車いす操作の巧みさに驚くだろう。
想像以上に速く、急激なターンやストップをくり返し、時にはコートとタイヤの摩擦によってゴムの焦げる匂いさえ漂ってくる。
また、車いすでのタックルがルールで認められているウィルチェアーラグビーでは、車いす同士がぶつかりあうたびに大きな衝撃音が響き、時にはお腹に振動さえ感じるほど激しい。その迫力はパラスポーツのイメージを一新させるだろう。
また、パラスポーツでは選手の障害はさまざまなので、できるだけ条件を揃え、公平に競えるよう、障害の種類や程度などで選手を「クラス」に分け、クラス別に競う競技も多い。
クラス分けはオリンピックにはない仕組みなので、慣れないと分かりにくいかもしれない。でも、会場で試合を観ることで選手の多様性を目の当たりにでき、クラス分けがなぜ必要なのか分かるはずだ。
「失ったものを数えるな。残されたものを最大限にいかせ」は、「パラリンピックの父」と言われる、ルートヴィヒ・グットマン氏の言葉だが、まさに選手たちは個々の障害をものともせず、自身の身体機能を存分に使い、進化させている。
競技用義足や車いすといった用具を使いこなして走ったり、自身の障害に応じ、さまざまに工夫したフォームで泳ぐ姿に、きっと心を動かされ、力をもらえるはずだ。
伴走を知って、パラスポーツを知って、私の世界は広がった。東京2020大会を控える今こそ、さらに多くの人に、この豊かな世界とつながってほしいと思う。
 
文章:星野恭子
提供:一般社団法人建設コンサルタンツ協会   協会HP https://www.jcca.or.jp/
「私たちが普段使っている道路や橋、鉄道、公園。移動で立ち寄る空港や港。上下水道、電気、ガスなどライフライン。災害から私たちの命を守るためのダムや堤防、防波堤など。これらは全て”土木技術”が係わる施設です。
建設コンサルタントは、これら施設の調査・計画・設計・施工監理・維持点検を、土木技術を用いて行う専門技術者集団です。」

 

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