スタート前の緊張感が伝わる選手達
10月21日(日)ヤンマースタジアムおよび長居公園で第21回全国視覚障がい者駅伝大会が開催された。
ゲスト、強化チーム、盲学校チームなども編成され盛大な盛り上がりを見せていた。
ゲストにはソウル・バルセロナの両オリンピックで4位に入賞した中山竹通さん、アトランタパラリンピックで日本人初のマラソン金メダルを獲得した柳川春己さん、リオパラリンピックで銀メダルを獲得した道下美里さん、同じくリオパラリンピックでの3種目入賞やマラソンワールドカップで金メダルを獲得した功績を持つ和田伸也さんが招かれた。
開会式で道下選手が「楽しく走りましょう!」と掛け声をすると拍手で会場全体が一つになった。
マラソン大会とは異なり、選手同士の交流や和気藹々とした様子を開会式から見ることができ、チーム戦ならではの熱気を感じることができた。
正午、タスキを肩からかけた選手たちが一斉に青空の下、駆け出した。
1区は6.8km、2・3区は3.4km、4区は6.4kmの道のりを走る。
2区間を走る選手も多く、「駅伝」と聞いて想像する大会とはルールも雰囲気も異なっていた。
タスキを受け取り、スタートダッシュを切る井内選手(左)と伴走者の日野さん
今回は私が感じた「第21回全国視覚障がい者駅伝大会」についてレポートしたい。
今大会はただ単にレースが繰り広げられるだけでなく、伴走体験や選手との交流会も用意され、観客と選手の距離、そして、ブラインドマラソンと観客の距離が近く感じられた。
大手メディアの密着取材も入っており、ブラインドマラソンの認知度が上がっていることを肌で感じることができた。
密着取材の対象になった井内菜津美選手(わかさ生活)は「視覚障がい者が走るときには伴走者が欠かせない。走るだけではなく、普段の行動も共にする。一緒に走るだけではない奥深いものがあるということを知ってもらえたらなと思う」と話していた。
選手と伴走者をつなぐ「絆」という名のロープ、スターターからアンカー、そしてたくさんの応援が詰まったタスキの二つで繋がれた視覚障がい者駅伝はスポーツの域を超えた「人と人の繋がり」を感じさせてくれた。
また、今大会では強化チームと自身の地元のランニングクラブ両方で走る選手もおり、普段の公式記録を狙う大会では見ることのできない柔らかい表情も溢れていた。
視覚障がい者の部で優勝に輝いた藪久ランナーズの堀越信司さんは、強化チームで1区を、地元のチームで4区を走り抜いた。「先輩方に誘ってもらい、強化選手の部と一般の部の両方を走った。今日は久々に楽しく走る事ができてよかった。
1区の疲れがある中で、どうやって4区を走るかが今日のレースのポイントだった。そういう意味ではしっかり走れたのではないかなと思う」とレースを振り返った。
ジャカルタで開かれたアジアパラ大会からまだ1週間という状況で素晴らしい走りを見せてくれた堀越選手。4区を19分19秒で走りきり見事区間賞にも輝いた。「きつい中でも押していく力がついてきた。あとは応援してくれる人が沢山いたのでその声が力になった」と笑顔で続けた。堀越選手の今後の目標は2月のフルマラソンで自己ベストを更新すること。そして、2020年の東京パラリンピックでメダルを握る姿を想像して日々懸命に走っている。
閉会式の前にはそんな世界で活躍する堀越選手の伴走を体験できたり、アジアパラリンピックのメダルに触れる機会を設けたり、参加型のイベントに工夫が施されていた。
アイマスクをして視覚障がい者体験を行う女子学生
伴走体験をした女子学生は「相手を思いやる気持ち1つで選手の走りに影響が出るのだなと思った。また機会があればやってみたい」とはにかみながら話してくれた。
伴走練習会は各地方で定期的に行われているので、ぜひとも参加してほしい。一人でジョギングをするよりもたくさんの気づきがあるに違いない。小鳥のさえずりや葉っぱの色づき、普段は何気なく見過ごしていることにも注目をしてランナーに共有して走ることも伴走の楽しさの一つである。
秋が深まり、マラソン選手にとっては絶好の季節になってきた。
木々の葉が様々な色を付けるように選手一人一人の「色」に注目して今後も追いかけていきたい。
知れば知るほどブラインドマラソンに魅了され、その奥深さからもう抜け出せない。
記事・写真 慶應義塾大学 前田さつき