JAPAN TIMESに青木洋子選手の記事が掲載されました。
原文は英語となりますが、和訳を紹介いたします。
視覚障がい者ランナー青木洋子、東京2020出場枠を目指す
10年前、青木洋子はまさか、今のような人生を送ることになるとは想像もしていなかった。
とくにスポーツで大きな結果を残したわけでもない。毎日のライフスタイルは、標準的なアスリートの生活とはかけ離れていた。それが今、毎日長い距離を走りこみ、チームのサポートを受けながら、ブラインドマラソンのレースに出場するようになった。目指すは2020年の東京パラリンピック日本代表――開幕まで残すところ、あと500日だ。
「人生がすっかり変わりました。まさかこんな風になるなんて」と、42歳の青木は言う。「自分が変わったとは思いません。でも、以前はできなかったことがいろいろできるようになった。叶えたい目標があるからでしょうね」
高校卒業後、ケガで視力に障がいを抱えるようになった。職業訓練学校に通い、コンピュータの使い方を習得すると同時に、歩行のリハビリにも励んだ。青木がいうには、日常生活では支障はなく、仕事場にも徒歩で通っている。
ある日、会社の同僚がブラインドマラソンのクラブを教えてくれた。これがパラアスリートへの道を開いた。
「誰かにサポートしてもらいながら、運動のつもりで歩いたり走ったりしたかっただけなんです」と青木。「自分一人では歩くことも走ることもできなかったけれど、クラブに参加したらすんなり伴走してくれる人が見つかりました」
以来、ブラインドマラソンが生活の中心になった。4年前に日本ブラインドマラソン協会から強化指定選手に選ばれた。そして昨年12月、山口県で行われた防府読売マラソンで3時間13分36秒という自己ベストを達成。日本の女子ブラインドマラソンでは歴代3位の記録だった。
国際パラリンピック委員会では障がいの度合いに応じて、ブラインドマラソンを3つのカテゴリーに分けている。低視力で、かつ/または光を全く感知できない選手(T11)、視力が0.03以下で、かつ/または視野半径が5度未満の選手(T12)、視力が0.04~0.1以内で、かつ/または視野半径が20度以下の選手(T13)。青木が該当するT11とT12では、ブラインドマラソンの選手は伴走者をつけて走らねばならない。
レース中、選手と伴走者はロープの端と端をそれぞれが持つそれぞれ持ち、伴走者がペース配分や、コース上の障害物、他の選手の状況といった情報伝達を行う。
「伴走者にとって一番大事なのは、選手の安全確保です」というのは、青木が所属するチームOYO(青木の旧姓、男澤の「お」と、洋子の「よ」からとって名付けられた)のヘッドコーチを務める福原良英。彼自身もまたブラインドマラソンの選手だ。
「伴走者の視力はランナーの思考とシンクロしなくてはならない。優れた伴走者は必要な情報を与えつつ、スパートのタイミングを心得ています」
だが青木は誰でも伴走者になれると断言する。福原によると、ブラインドマラソンのランナーはみな日々の練習のときとレースに出場するときで、伴走者を変えているという。
たとえば青木の場合、毎朝およそ10kmを走りこむが、伴走者はローテ―ションで交替している。日々の練習の伴走者は、マラソンを走れる力は必要ない。
「私が求めているのは、毎日の練習で私と一緒に走りたいと思ってくれる人。いまは15人の仲間が毎日の練習をサポートしてくれています」と青木。「もちろん大会では、スピードがあって経験豊富なガイドランナーが必要。でも毎日の練習では、朝早くに私の家まで来てくれて、一緒に走ってくれる人を最優先しています」
そのうちの1人が横山牧子だ。
「陸上の経験はありません」という横山は、何度か青木の強化合宿に参加したことがある。「青木さんとは、練習相手というより友人のような関係ですね。時間を取られるので、伴走をするには家族や職場の理解が必要です。でも、チームの仲間と一緒にゴールを目指すことで、達成感が得られます」
ブラインドマラソンの選手は1回のレースで2人まで伴走者をつけることができる。伴走者の交代は1回だけ、10km、20km、30km地点のいずれかで行われる。レースの途中で伴走者がリタイアすれば、選手も失格となる。
ドーピング違反など、伴走者がルール違反をした場合も選手は失格。また伴走者は、選手が転倒しても手を貸すことは認められず、選手より先にフィニッシュラインを越えてはならない。
青木の究極の目標は、彼女にとっては初めてとなる来年のパラリンピックで出場枠を獲得し、メダルを獲得すること。T12では、リオ・パラリンピックの銀メダリスト道下美里が日本代表の最有力候補だ。42歳の彼女は、現在の世界記録保持者。2017年の防府読売マラソンで2時間56分14秒という世界新記録をマークした。
「青木の自己ベストは道下よりも約20分遅れている。去年の夏から3時間10分以内にゴールすることを目標に掲げています」と福原。「メダル圏内は3時間台あたりになるだろうと言われています。たぶん青木はあと10分タイムを縮められると思います。マラソンでは何が起きてもおかしくない。パラリンピックまでに、道下との差をもう数分縮めたいと思っています」
2月3日の別府大分マラソンで青木はレース中盤に道下の前に出たが、結果は道下の優勝。青木は2位の近藤寛子、3位の西島美保子に次ぐ4位だった。青木以外は全員リオ・パラリンピック経験者。青木のタイムは3時間17分19秒と、道下から10分以上も遅れてしまった。
「このレースは実験でした。現時点での自分の実力を知りたかったので、これまでやってきたことを踏まえて積極的に攻めていきました」と青木。「でもすごくタフなレースで、体が壊れるかと思った。また走れるかどうかもわからなかった」
「周りの人からたくさんアドバイスをもらって、今では、自分が成長するためにはここで踏ん張らないと、と思えるようになりました。あのレース(別府大分マラソン)以来、前よりも1回1回の練習に集中するようになって、どうすれば上達できるか考えるようになりました」
チームOYOの一員である浮津康弘は、青木の4位という結果に大きな可能性を見た。
「彼女は疲れて切っていて、レース後は動けなかった。でもあれ以来体力的に強くなりましたね」と浮津。「いまは限界まで走って、それから一息入れて、それからさらに走る。そこがあのレースから大きく変わった点です」
青木の次の目標は、4月28日ロンドンで行われるブラインドマラソン世界選手権大会。東京2020出場枠獲得の第1歩となるレースだ。
上位4人の選手には、所属する国に1つずつ出場枠が与えられる。ただし、必ずしも選手個人の出場枠が確保されるわけではない。つまり青木が日本人選手の中で1番になれば、日本ブラインドマラソン協会から代表選手の推薦を受けられる。
日本には、来年ロンドンで行われる世界パラ陸上マラソンワールドカップで出場枠を増やすチャンスがある。また国内の選考予選大会として、8月に北海道マラソン、12月に防府読売マラソン、そして2020年の2月別府大分マラソンが行われる。
「まずは日本のために出場枠を獲得する。そして、願わくば自分が代表に選ばれたい」という青木は、強化練習での成長に自信をのぞかせる。「この4年で、タイムが3時間39分から3時間13分に伸びました。前にも増して走ることばかり考えています。体調管理にも気を遣うようになったし、フォームの修正に時間をかけなくてもよくなった。そういうところからも、自分が成長しているなと感じています」
英語記事原文はこちらからご覧ください。