熊谷 戦略ハマり、東京パラリンピック代表推薦内定
「すごいうれしい気持ちでいっぱい」。東京パラリンピック代表が複数枠の場合、代表となる熊谷はホッとした表情をみせた。
レースプランが功を奏した。今大会は最高気温22度。「みんな暑熱対策をしているので、若干遅めに入ると思った。あえて冬場と同じように早いペースで走るようにした」。後半どれだけ失速せずに、順位を維持できるかが課題だったが、失速を最小限に抑えて、ゴールできたことが勝因となった。
決して、簡単な道のりではなかった。4月に左膝を負傷。「疲労骨折一歩手前」と言うけがに3か月苦しんだ。「けがしたことで、プランが滅茶苦茶」とけがの怖さを痛感した。7月から1か月で今大会に合わせ2位の好成績を収めた。
目標は東京パラリンピックの金メダルだ。「世界勢は2時間20分台。東京パラリンピックに出ることではなく東京パラリンピックで1位を目指している。そのタイムに近づけるように努力したい」と意気込む。「もしクラスが同じ人が1位だったら、自分も推薦をいただけなかった。満足せず、もっと速くなりたい。東京を見据えてけがを言い訳にせず上を目指したい」。2時間20分台で走る世界勢と勝負できるように、強化を続ける。
写真1:2位でゴールインした熊谷選手
和田 良いレースはしたが、あと一歩及ばず・・・
2位の熊谷を捉えることはできなかった。ロンドンパラリンピックT11クラス5000m銅メダリストでリオデジャネイロパラリンピックのマラソンにも出場した和田伸也(42=長瀬産業)は3位でゴールイン。東京パラリンピック代表推薦内定を勝ち取るために、あと一歩及ばなかった。
「(熊谷選手は)強かったですね。これ以上はできない」と和田はベストを尽くした。30k地点まではイーブンで刻んで、終盤ペースをあげるのが和田の必勝法。今大会も35kからゴールまでに3位だった岡村正広(49=RUN WEB)を抜いた。「良いレースしたなという感じです。最後の直線でしっかり順位を1つあげられたのは今後のレースにつながる」と和田選手の後半伴走を務めた中田崇志さんも手応え十分のレースだった。今後は1500m、5000mで東京パラリンピック代表を目指す。11月にドバイで行われる世界パラ陸上で4位以上であれば、東京パラリンピック代表推薦を獲得できる。
今後の課題は全体的な走力アップと終盤のスパートだ。「もう一歩手前でスパートモードに入れるようにしたい」と中田さんは語る。「例えば、今大会はラスト500mくらいからスパートがかかってきたが、もう少し前からかけたい。5000mでいうとラスト400mではなく450mからでもかけられるように幅を広げたい。遠くから行けばいいわけではないが選択肢を増やす意味でやっていきたい。もう100m前からかけていればいいときもあるし、ずっと並走しているときはラスト300mで一気に離せればいい。展開次第でスパートをかけられるようにすれば勝利の確率が上がりますよね」と言う。「和田さんは冷静で安心」と中田さんは語る。代表推薦内定を逃したが、決して悲観する内容ではなかった。ドバイで東京パラリンピック代表推薦を勝ち取る。
写真2:ベストを尽くした和田選手(左)と伴走者の中田さん(右)
堀越は途中棄権、岡村は復活の4位
すでに4月のロンドンマラソンで東京パラリンピック代表推薦内定を得ている堀越信司(31=NTT西日本)は35k地点で右足の太ももの痛みで棄権した。大きなけがにつながる前に棄権となった。「『100%力を出し切ってゴールをする』という目標を達成できなかった。自分の実力不足。まだまだ実力が足りないな」と大会後、悔しさをあらわにした。大会前は「周りの皆さんに来年に向けて、『ブラインドマラソンはこんな感じか』と知ってもらいたい。『ブラインドマラソンってこんなに速く走るのか』と見てもらい、来年の東京パラリンピックの盛り上がりに一役買いたい」と意気込んでいたが、残念な結果となった。「あと1年ですが、結果を出せるようにリオデジャネイロパラリンピック4位の悔しさを東京で晴らせるように、できることを一生懸命やって、皆さんに見てもらって、パラリンピックについて興味を持ってもらいたい。結果を出したい」と前を向いた。
岡村正広は復活の4位となった。昨年12月に右膝関節軟骨を損傷した。「危機的な状況」と岡村が振り返るほど苦しんだ。走りきることを今大会の目標としていた岡村は常に上位争いに食い込む好走を披露。東京パラリンピック代表の推薦内定はもらえなかったが、「きっちり最後まで走り切ったということはよかったかなと思う。今後につながるレースだった」とうなずいた。
復活を果たしたリオデジャネイロパラリンピック銅メダリストは「力を落とさずに次のレースに臨みたい」と別府大分毎日マラソンで東京パラリンピック代表推薦を勝ち取ることを誓った。
写真3:見事な復活を果たした岡村(中央)
安田享平ブラインドマラソン協会強化委員長のコメント
「パラリンピックのブラインドマラソンがないクラスに所属する高井が『ここで勝ってもパラリンピックとは関係ない』という気持ちのハンディを乗り越えて、『純粋にマラソンを頑張りたい』という思いを感じた。それに他の選手も引きつられてレベルの高い大会になった。非常に良かった。東京パラリンピックでメダルを取れるようにこれから数字、記録を意識させていきたい」
記事・写真 法政大学 藤原 陸人